福島民友新聞家庭版「Me&You」28年8月号に掲載されました

自分は大切な存在 理事長 若月 ちよ

 北海道で行方不明になった七歳の男の子が一週間後に無事見つかった出来事がありました。しつけか虐待かと話題になった出来事でもありました。
 一週間後に無事男の子が見つかったと聞いた時、良かったと思うと同時に、この子の中にある「生きる力」を感じました。

 山の中に置き去りにされた瞬間、この男の子は何を思ったのでしょう。
 「自分は、ダメな子なんだ。だからお父さんから捨てられたんだ…自分なんてどうなってもいいんだ」と思っていたとしたら、どうでしょう。極端な言い方かもしれませんが、その時点で、生きることをあきらめてしまったかもしれません。でも、この男の子は、その時「何とかしよう」と思ったから、その場にとどまらず、道を進んでいきました。「助かりたい」・・・そんな一途な思いだったのではないでしょうか。だからこそ、あの場にたどり着き、自分を守りながら命をつないでいたのではないでしょうか。

 「自分はどうなってもいい」というあきらめと、「自分は助かりたい」という思いが生じる違いって何なのでしょうか。
 土壇場で「生きたい」「助かりたい」と思える子には、「自分は大切な存在だ」という自分を肯定する気持ちが育っているのだと思うのです。自分は大切な存在だから、自分を守るためにできることを考えようとするのです。それは、文字通り「生きる力」です。

 いじめや虐待を受け続け、「お前はダメな子」と存在を否定される言葉を受け続けている状況では、子どもの中に「自分は大切な存在だ、という気持ちは育ちません。
 周りの大人から愛されている実感があり、自分の気持ちをちゃんと聞いてもらえ、大丈夫と信頼されることで、子どもの中に自分は大切な存在だ、という気持ちが育まれるのです。子どもの中でその気持ちが育つことで、いろいろと起こってくる出来事に対して何とかしようとする力が湧いてくるのです。つらいこと、苦しいこと、悲しいこと…人生にはいろいろなことが起きます。それらを乗り越えていく力、そしてそんな時に、周りにSOSをちゃんと発信できる力の源は、「自分は大切な存在だ」と思えることなのです。

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